スマートスピーカーはマーケティングをどう変えるか

Googleが5月に日本発売を発表した「Google Home」、年内には発売されるというLINEの「WAVE」、既に昨年米国で1000万台近く売れていて日本上陸も噂される「Amazon Echo」など、最近日本でも急激に注目を集めているのがAI搭載の音声認識スピーカー「スマートスピーカー」です。

「ビル・エバンスかけて」と話しかけると音楽をかけてくれたり、「今日の天気は?」「今日のニュースは?」と問いかけると答えてくれる。家電のリモコン役もこなしてくれます。

実際にはその先にGoogle Assistant、LINEのClova、Amazon Alexaといったクラウド上のAIプラットフォームがあって、スマートスピーカーはその入出力デバイスに過ぎません。スマホはもちろんクルマや冷蔵庫、エアコンといった家電まで、要はネットに繋がる機器なら全てに組み込むことができるので、今年1月にLas Vegasで開催された家電見本市 CESでは700ものAmazon Alexa対応家電が発表されたそうです。

今後日本でリリースが相次ぐスマートスピーカー+クラウドAIですが、もし本格的に普及するとマーケティングにはどんな影響をもたらすのでしょうか?

例えばキーボード入力やスマホのタップの替わりに音声で検索するようになることが考えられます。検索エンジンを前提にした広告はもちろん、ブラウザを通じてアクセスするweb空間そのものの存在意義も相対的に薄まるかもしれません。

顧客との「対話」による究極の1to1

しかしマーケターにとってより本質的な変化は、顧客との「対話」が当たり前の世界になるということではないかと思います。抽象的な概念としての「対話」でなく、リアルタイムでの顧客とのやりとりが常に発生する世界になるということです。

対話といっても必ずしも音声によるものとは限りません。映像、画像、テキスト、振動、それに対するタッチやアクションなどあらゆる手段を使ったクラウドAIとのインタラクションが商品やサービスの中に組み込まれることになるでしょう。
顧客との対話やセンサーを通じてプライベートDMPに蓄積したデータに基づいてAIが顧客のニーズを予測し(察して)、最適な情報やサービスを提供します。従来のCRMは全てその中に組み込まれていくことになると思います。
商品は購入しただけでは完結してなくて、対話を通じて提供される情報や機能の方が重要だったり、顧客の好みやニーズに合わせて自律的に機能をカスタマイズしたり追加して進化するのが前提になるかもしれません。
それが本当に便利な機能やサービスなら顧客は喜んで自分の個人情報を預けます。今のMAの先にある究極の1to1だといえるでしょう。

クラウドAIとその一次インターフェースは現在の検索エンジンのように一握りの巨人が押さえることになりそうです。しかし検索エンジンやソーシャルネットワークを前提に顧客とのコミュニケーションを組み立てるのが当たり前になったように、多くの企業はクラウドAIやスマートスピーカーをツールとして使いこなしながら顧客と対話するようになるのではないでしょうか。

昨年から私たちはマーケティングオートメーションとチャットボットを組み合わせた1to1に取り組んでいます。日本でのチャットボットの導入事例は多くが問い合わせ対応や雑談によるエンターテインメントの提供ですが、顧客データに基づくプッシュメッセージから対話を始めるチャットボットには、上述した「究極の1to1」の可能性があると思います。
実際に開発してみると、顧客とのリアルタイムでのやりとりを通じて情報を提供したり取得する対話設計には、従来のwebサイトなどとは全く異なるノウハウが必要となることを痛感します。

今年10月17日(火)-18日(水)に開催される「ad:tech tokyo 2017」では初めてAIチャットボットのセッションが設けられました。実は私はそこにモデレーターとして登壇させていただくことになったのですが、先行してチャットボットの活用を進めているマーケターの方々とこんなテーマで議論してみたいと思っています。

岡本泰治

京都大学卒業後、株式会社リクルートを経て1993年ディレクタスを設立。 航空会社や自動車メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案・実行し、近年ではマーケティングオートメーション(MA)の導入支援やシナリオ設計、MA導入後のOne-to-Oneクロスチャネル展開設計など、常に最新のソリューションと長年培ってきたノウハウをもとにOne-to-Oneマーケティングを推進。