全ては顧客体験のために。
GDOはテクノロジーとデータで「優秀な店員さんの接客」を追及する。

CRMやOne to Oneマーケティングのコンセプトが世に出て約30年。ディレクタスは創業以来30年、ほぼ同じ年月を一貫してこの領域の支援サービスに取り組んできました。当初描かれていたコンセプトは、テクノロジーやコミュニケーション環境の目を見張る進化によって予想を超える形で実現されつつあります。
では、これから企業と顧客の関係はどうなっていくのか?いわば「CRMの次」は何なのか。それを考えるために、今までディレクタスとご縁のあった業界の有識者に今までの歩みやテーマ、マーケティング領域におけるこれからの課題などを代表の岡本がお聞きしていきます。

3回目となる今回は、ゴルフのワンストップ・サービス(見る・買う・行く・楽しむ)を提供するゴルフ専門ポータルサイト「GDO」を展開し、ゴルフを通じて豊かで「あそび」のある生活を提供している、株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)執行役員 CMO/CIO 志賀 智之様との対談となります。

プロフィール

志賀智之

株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン 執行社員 CMO/CIO 志賀 智之

2008年入社後、IT戦略室長、情報活用推進部部長を歴任し、お客さま体験デザイン本部(現UXD本部)を設立後、同本部長を経て執行役員CMO/CIOに就任。データの活用と徹底した顧客中心のマーケティング設計により、会員基盤やサービスの相互利用を着実に拡大し売上の連続成長を達成。会員基盤やサービスの相互利用を着実に拡大し売上の連続成長を実現している。

 

岡本泰治

株式会社ディレクタス 代表取締役 岡本 泰治

1993年にディレクタスを設立し代表に就任。今年で設立30周年を迎える。数多くの大手企業の1 to 1マーケティング戦略を立案。配信システムの提供、コンテンツ企画・制作からオペレーションアウトソーシングまで実施に必要な全ての機能をワンストップで提供している。企業のマーケティング活動を支援することによって、人々の暮らしをより心豊かで期待に満ちたものにすることを目指している。

 
 
岡本: GDOさんは2012年頃にはすでに、Responsys社(2013年にOracle社が買収)のMAツールを使われていましたね。BtoC向けのマーケティングオートメーションが日本に登場後、ごく初期に導入した先駆けの一社だったと思います。

最初にResponsys MAツール導入・運用のご依頼をいただいた際には、規模的にも難易度も当時のディレクタスでは対応するのが難しく、心苦しくもお断りをさせていただいた経緯がありました。 しかしその後、SMC(Salesforce Marketing Cloud)の運用をお手伝いさせていただくようになり、MAユーザー勉強会を開催したり、そのほかにも新しい取り組みを色々ご提案してPoCをご一緒させていただきました。

志賀: PoCはその後形になった物も、ならなかった物もそれぞれ沢山ありました。懐かしいです。顧客コミュニケーションのためのチャットボットの研究にも、早くから一緒に取り組みましたね。
 
 

GDOが大切にする、「モーメント」について

岡本:まずは GDOさんが大切にされている、マーケティングについての考え方を教えてください。志賀さんは以前から「接客」という言葉をよく使われていますよね。

志賀:そうですね。社内では「お客様のモーメントを見逃さないように」と継続して伝えてきました。

お客様の気持ちが動いた瞬間に、店員が自然に声をかける……ショップで行われている接客と同じ行動がWEB上でも再現できないか検証を重ねてきました。ゴルフであればゴルフ場に居る間に声をかけないと、「このクラブが欲しい」「次はあのゴルフ場へ行こう」といったお客様の盛り上がった気持ちは、すぐに消えてしまいます。

岡本: 志賀さんの場合はお客様に提供したい顧客体験がまずあって、それを叶えてくれるマーケティング手法やツールを探し出して使っている点が特徴的だと思います。ツールありきになっていないからこそ、MAも使いこなせているのだと感じました。

 
志賀: 私たちがしてきた事は、あえて分類すればCRMやマーケティング活動という言葉で括られます。しかし現場の体感としては、見込み客を含めたお客様との接点づくりや価値提供をめざした活動でした。すべての活動を、広い意味でユーザーエクスペリエンスに繋げていけるよう意識しています。

岡本: GDO社でマーケティングを統括する組織は「UXD(ユーザーエクスペリエンスデザイン)本部」と呼ばれていますね。確かその前は「お客様体験デザイン(CXD)本部」で、別々の組織だったマーケティング本部と、データ分析をするチームが一緒になって創設されたと伺った記憶があります。

志賀: 2013年頃ですね。当時から私は「顧客体験のデザイン」という言葉を使っていて、チーム名もあえて日本語で”お客様体験デザイン本部”としました。社員間で目的の共有が確実にできるよう、日本語にこだわった結果です。

 
岡本: 当時はまだ「お客様体験」や「顧客体験」という言葉もまだ浸透していなかったように思います。その後2、3年ほどして、カンファレンス等で使われるようになったのではないでしょうか。

志賀: そうかもしれませんね。
この頃の資料を見てみると、”モットーは顧客原理主義”と書いてあるんです(笑)過激に感じられる言葉ですけれど、一切の利益を考えずお客様の体験を良くすることだけを考えようという意味です。若干過激な言葉を使わないと、掲げたコンセプトが組織に浸透しにくいと考えていました。

岡本: 「顧客原理主義」はすごいなあ(笑)GDOさんでは経営層が顧客体験の重要性を理解して、旗を振って先導していくカルチャーがあるように感じます。
 
 

GDOのマーケティング組織の特徴

志賀: 前述の通り、マーケティング本部とデータ分析チームを統合したわけですが、その中には分析システムの開発者も含まれていました。また、各事業部のマーケターにはお客様体験デザイン本部を兼務してもらい、本部長には当時の予約事業の本部長(現副社長)が就任するなど、事業部に横串を通し、顧客体験を改善していけるのが私たちの強みかもしれません。

岡本: 全社の顧客体験をリードする、組織を横断する部署のトップに事業の本部長だった副社長が就任されるというのが素晴らしいですね。縦割りの組織を横断して顧客体験を全社で最適化する、というのは多くの企業で苦労されている難しい課題だと思います。

志賀: 当時からお客様の視点やお客様に何を提供するかを大切にしていました。WEBサイトやアプリのUI設計と、メールなどのコミュニケーション設計ですね。また、CSは唯一人間が直接対応する重要な顧客接点として捉え、現在ではマーケティング組織に組み込んで提供品質の向上を図っています。

 
岡本: 2010年代前半当時の状況を考えると、全社的なUX向上を担当する横断組織を置いて、そこにデータ分析官や開発者もいるというのはかなり先進的だったのではないでしょうか。

志賀: 最初から意図的にそうしていたかは別として、マーケティング部門にデータを活用する機能があり、開発ができる担当者もいる非常に特殊な組織だったと思います。当時からSQLを組める、BI環境を作れるスタッフが複数いましたからね。 UX向上のためにMAツールをフル活用する姿勢がイノベーティブだったため、ツールベンダーさんも惜しまずに様々な協力をしてくれました。

岡本: 志賀さんはそれまでのご経験から、当時もUX系の知見が豊富でした。そうした部分も、チームにいい影響があったのではないでしょうか。

志賀: そうですね。私もUX系の技術が好きで、もともと研究をしていたのがいい結果に繋がった部分もあると思います。
あとは、まずサービス改善のために着手したのがメールだったことが、分かりやすく結果を得られた要因でした。お客様にとって変化が分かりやすく、手を加えたことで反応がダイレクトに出ました。当時はコンバージョン全体の30%をメールが占めていたこともあり、初動の成果を大きく出すことができました。

 
岡本: 当時はお客様と接触する方法が限られていて、メールは最も有力なツールでした。

志賀: はい。効果が大きいツールだったからこそ、かつては部署やサービスごとに気軽に送りすぎてしまっていた面もありました。恥ずかしながら日によっては、お客様の元に10通くらい届いていたこともあります。一通ごとのメールは有益であっても、結果的にお客様の気分を害してしまうということで、配信ルールを作り全社で送信頻度を整えるところから改善を進めました。

また、個々のお客様それぞれに最適なタイミングで気の利いたメールを送るには、様々な行動データをIDに名寄せして、お客様の解像度を上げる必要があります。一方で、メールアドレスをはじめとした個人情報を安全に運用することも求められ、結果としてCDPの構築とMAの導入に繋がりました。
 
 

”未稼働顧客”にも“非会員”にも、体験の向上を

志賀: 組織内の意識の話でいうと、「お客様体験デザイン本部」ができたことで私たちが考えるお客様像も大きく変わりました。以前はコンバージョンした方がお客様で、それ以外は未稼働顧客という意識がありました。
しかし、あらゆる場面でお客様の体験品質の向上を目指す中で “まだコンバージョンしていない方(未稼働顧客)でも、会員登録していないサイト来訪者(非会員)でも、私たちのお客様である”と自然に顧客設定が変わっていったのです。

その中で、重要なタッチポイントとして一番力を入れたのがスコア管理アプリでした。スコアはゴルフの際に必ずつけるものですから、非会員のゴルファーにも広くリーチできるよう、会員登録をしなくても無料でスコアを記録できる仕様にしました。2020年には200万ダウンロードを突破し、多くの方とのゴルフプレー中のタッチポイント作りに成功しています。

私たちは、ゴルフライフを網羅するあらゆるサービスを提供していますので、無料で提供されるサービスで顧客接点が得られれば、その後有料事業を横断してご利用いただける可能性が高まります。

岡本: CRMのCustomer、「お客様」の定義が変わってきたんですね。お金を払っていただいている方だけでなく、GDOに接するすべての方がお客様であるという。

 
志賀:  スコア管理アプリの開発は、google検索や広告とは違う集客チャネルを作るためでした。
実際にスコア管理アプリがもたらした影響は非常に大きく、アプリのダウンロードが新規会員登録に繋がり、単体事業のリピートだけでなく複合的にサービスを利用してくださるGDOブランドのリピーターが大きく増えました。近年ではGDOが練習場へ導入しているトップトレーサー・レンジ(打球追跡システム)の利用を通して会員になってくださる方も増えています。

岡本: 志賀さんは以前から一貫して、顧客体験を良くするために色々な技術を取り入れられてきた印象があります。まずはお客様のメリットがあって、そこに使えるツールは何かという視点で最適な仕組みをつくられている。

志賀: その辺りはIT技術を推進するだけの部署ではなく、マーケティングだけでもない両方の能力を備えた部署であることの利点だと思います。顧客原理主義、「お客様に対する価値提供は何ですか?」という部分にすべての活動が帰結します。
良い顧客体験を実現するためには、お客様を理解してパーソナライズするテクノロジーが必要です。それを突き詰めた結果が今に繋がっていますね。

AIが登場した世界のこれから

岡本: これからは業務にAIを活用することが当たり前になってくると思いますが、それによって私たちの働き方はどんなふうに変わると思われますか?

志賀: 多様なAI機能が生まれ、便利になってきました。ただ生成AI、予測AIやレコメンドエンジンを見ていても、まだ多大な期待を持てる段階ではない印象です。MAのシナリオ自体をAIで実行できるようになるのも、しばらく先になるでしょう。でも一部のクリエイティブを作らせることはすでに出来る状態です。
そういった部分は上手く活用していきたいですし、一つずつの作業を今後AIが補完してくれるようになるのは間違いないと思います。

今はまだ、AIはこちらが意図したように動かない部分が多いです。しかし失敗を重ねてそのデータを蓄積しないと課題が見えず改善もしないので、まずは試してみるしかない段階だと捉えています。上手くいかない経験が、改修のきっかけになりますからね。試行錯誤の末に、AIとの付き合い方が見えてくるのではないでしょうか。
以前google等の検索結果に広告が出てきた時も、明らかに今までのカスタマージャーニーとはプロセスが変わりました。AIの登場も同じように、消費者の行動を変えていく可能性はあるでしょう。

 
岡本: 確かにそうですね。お客様の消費行動自体が変わりそうです。一方で私たちが根本的に目指すことは変わらないんでしょうね。

志賀: 今は十数年前に「こんな事ができたらいいのに」と願ったことが、ツールが揃って現実にできるようになってきました。ただそれらはあくまで便利な道具で、使う人がいないと役に立ちません。私たちはツールを使いこなして優秀な店員さんとしてお客様の前に存在し、いつでも最適なコミュニケーションができる状態でありたいと思っています。