現在、行動ターゲティング広告やオーディエンスターゲティング広告など、ユーザーのWeb閲覧履歴に基づき、広告を出し分けることが一般化しています。
また、レコメンドエンジンやメールマーケティングにおいても、ユーザーのWeb上の行動に基づき、配信コンテンツを決める最適化が行われています。
このような中、近年、デジタルマーケティングにおけるWeb閲覧履歴の活用に際し、個人情報保護の観点が議論のテーマとなることが多くなっています。

Do Not Trackとは?

広告領域では、“Do Not Track”(DNT)という考え方・仕組みが注目を集めています。“Do Not Track”とは、その意味の通り、「トラッキング禁止」です。
基本的な考え方は、ユーザーがトラッキングされたくないという意思表示を行った場合、サービスプロバイダーはそのユーザーのWeb閲覧履歴のトラッキングを行ってはならない、というものです。

具体的には、
1) Internet ExplorerやFirefoxなどのブラウザで“Do Not Track”を指定する
2) DNTヘッダという情報がサービスプロバイダー(広告配信システムなど)へ送信される
3) サービスプロバイダー側がDNTヘッダの情報に基づきトラッキングを行わない
という仕組みです。

米連邦取引委員会(FTC)が2012年3月に発表した「Protecting Consumer Privacy in an Era of Rapid Change」の中でも“Do Not Track”が支持されています。

「Protecting Consumer Privacy in an Era of Rapid Change」

Do Not Trackの普及

FTCは「2012年末までには、使いやすく効果的な“Do Not Track”オプションを消費者が利用可能となると確信している」と述べています。
また、2012年3月29日に米Yahoo!社が“Do Not Track”への対応を行うと発表しました。同発表では、同社の全世界のサイトで夏までに実装が完了する見込みと述べられています。

EUでの動き

EUでは通称“Cookie Law”と呼ばれる法律が2011年5月26日に成立しています。
この法律下では、cookieでトラッキングを行う場合、事前に明示的なパーミッションを取得することが義務付けられます。(つまり、オプトイン形式)
サービスプロバイダー側にとってはかなり厳しい内容のため、議論を呼んでいます。

国内での動き

“Do Not Track”とは異なりますが、国内では、マイクロアド社が2012年3月14日に、同社が提供する行動ターゲティング広告の詳細が閲覧でき、かつ、行動履歴取得の停止が可能なページへと遷移することができるラベルをユーザーが容易に判別可能な形で広告上に表示することを発表しました。

マイクロアド社プレスリリース「広告へのオプトアウト導線ラベルの追加表示について」

Web閲覧履歴の利用に関してユーザーが選択するという形が確実に進んでいます。

データベースマーケティング、Eメールマーケティングへの影響

現在は主に広告分野でのWeb閲覧履歴の活用における個人情報保護が議論されていますが、今後、データベースマーケティングやEメールマーケティング領域でも同様の観点が求められると予想されます。
例えば、米国を中心に普及している、Webサイト上のユーザー行動をトリガーにしてメール配信を行う場合(カート放棄者向けメールなど)、単純にメール配信のパーミッションを得るだけでなく、Web閲覧履歴をメール配信に活用する旨のパーミッション取得及び、明示的に拒否する手法の提供が求められる可能性があります。

現状での対応

現状では、プライバシーポリシーなどで、Web閲覧履歴をトラッキングしている旨と、そのデータをマーケティング活用する可能性がある旨を明記し、オプトアウト方法(主にcookieベースのオプトアウト)を提供するのが最低限要求される対応と考えられます。
ただし、個人情報保護の議論およびテクノロジーは日進月歩のため、注意深く最新情報をウォッチし、最新の要求レベルを随時確認し続けることが必要となります。

※当コラムは、2012年4月16日時点の情報を基にしています。

岡本泰治

京都大学卒業後、株式会社リクルートを経て1993年ディレクタスを設立。 航空会社や自動車メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案・実行し、近年ではマーケティングオートメーション(MA)の導入支援やシナリオ設計、MA導入後のOne-to-Oneクロスチャネル展開設計など、常に最新のソリューションと長年培ってきたノウハウをもとにOne-to-Oneマーケティングを推進。