Print of Things
SUBARUの“高精度データ”戦略
顧客の自発的行動を促す1to1マーケティングと紙DMの可能性
自動車の購入は比較・検討のうえで判断されることが多く、現在でもリアル店舗の影響が大きい消費行動です。だからこそ、顧客自身の行動から得られるデータは、高い信頼性とマーケティング上の価値があります。
株式会社SUBARUではお客様が求める情報をピンポイントでお届けするため、Salesforce Marketing Cloud Engagementをはじめとしたツールを活用し、一人ひとりの状況や関心に応じたナーチャリング施策を継続的に展開しています。さらに、長期的な購買検討に適した紙媒体の活用にも注力し、リアルとデジタルを横断した“取りこぼさない”顧客アプローチを実現しています。
本記事ではSUBARU社の1to1コミュニケーションの全体像や、Salesforce Marketing Cloud Engagementとリアルタイム印刷ソリューション「Print of Things」を連携させた紙媒体の取り組みについて、国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課にて、主に広告宣伝や顧客ナーチャリングを担う木村様にお話を伺いました。
株式会社SUBARU
国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課 木村 巧様
――まずはSUBARU社におけるマーケティング推進部の役割や、ミッションについて教えてください。
SUBARUの国内営業本部 マーケティング推進部では、国内市場を対象に新型車の導入計画および販売戦略の立案や、それらのコミュニケーション戦略の立案と実行を担っています。
少子化や都市化による生活スタイルの変化により、自家用車が「一家に一台」という時代ではなくなりつつある中でも、私たちは「クルマを通じてお客様の生活を豊かにする」ことが明確なミッションとなっています。
私たちの製品には、「アイサイト」をはじめとした安全性能や走行性能といった、他社にはない技術的な強みがあります。これらは単なるスペックの高さではなく、「安心と愉しさ」というSUBARUのコーポレートアイデンティティに根ざした独自の価値であり、ブランドの信頼性にも直結しています。こうした価値をしっかりとお客様にお届けすることで、長く支持していただける関係を築くことを目指しています。
さらに、製品の技術的な特徴だけではなく、“SUBARUらしさ”に共感してくださるお客様が多くいらっしゃるのも当社の特徴です。たとえば、雪道を走ることが欠かせないウィンタースポーツを楽しまれる方やロングドライブで長距離を移動される方など、アクティブなライフスタイルを持つ方々から高い評価をいただいています。こうした“SUBARUだけのユニークさ”に共感してくださるお客様層の厚みも、私たちの強みのひとつです。
そのため、お客様とのタッチポイントではこのような方々に向けて、「スノーボードを楽しむ為に雪山に向かう時に便利な機能」 等、具体的な利用シーンのご提案を含めたコミュニケーションを行っています。
――そのような訴求を実現するためには、顧客理解が不可欠だと思います。では、そうしたデータ活用に至るまで、どのような背景や課題があったのでしょうか?
SUBARUでは、早くから1stパーティーデータの活用に取り組んできました。2012年頃には、販売店との連携を強化するためにカスタマーデータプラットフォーム(CDP)の運用を開始しました。これにより、オンライン・オフラインを問わず収集した顧客データを一元化する基盤が整備されました。当初から「いかに細かくデータを連携・活用できるか」を前提に設計されており、セグメンテーションも初期段階からきめ細かく設定できるよう準備されていました。やみくもに膨大なデータを集めるのではなく、「必要なデータをどう見極め、選別して活かすか」という視点を早い段階から重視していた点が特徴です。
しかし当時は、収集した情報を統合し、一貫性を持って活用する体制が十分ではなく、この課題を解決するために、2018年から2019年頃にかけてSalesforce Marketing Cloud Engagement(SMC)を導入し、まずはメールマガジンによるナーチャリングに着手したと聞いています。また、SUBARUでは「SUBARU ID」と呼ばれるお客様IDを発行し、オンライン・オフラインの顧客接点を一元化しています。販売店との間で構築された堅牢なデータ基盤があったため、その上に段階的に機能を積み上げることができました。これは単なるインフラ整備ではなく、「将来的にこうした顧客接点が必要になる」という中長期的な視点を持って進められていたことが要因です。
この仕組みにより、各拠点が持つ顧客情報も含めて一貫したデータとして扱うことが可能になり、例えば「試乗予約をしたお客様に対し、直後にフォローアップメールを配信する」といったタイムリーで精度の高いアプローチが実現しています。販売店舗で得られた接点情報とオンラインで取得された行動データが統合されているからこそ、こうした即応性のあるコミュニケーションが成立するのです。もちろん、「誰に」「どのタイミングで」アプローチするかというコミュニケーション設計は、一度作って終わりではありません。お客様の状況は常に変化するため、継続的な改善を重ねながら最適化を図っています。
――データを使ったマーケティング施策として、具体的にはどのようなアプローチをされているのでしょうか?
代表的なのは、メールマガジンを活用したシナリオ配信です。たとえば、ある期間に「フォレスター」の車種サイトに訪問し、特定のアクションを取ったお客様を抽出して、カタログ請求や試乗予約を促すメールを段階的に送るといった施策ですね。
定期配信だけでなく、こうした個別シナリオによる細分化されたアプローチにより、SUBARUのメールマガジンの平均開封率は40%超、クリック率も2〜3%を維持しています。他社の平均が1%以下というデータもあるなか、これは非常に高い数字だと捉えています。
また、車両購入に使用できるクーポンが抽選で当たる「購入資金キャンペーン」のような施策も実施しており、他社車からの乗り換えを検討されているお客様のリードを獲得した上で、SMCを通じてナーチャリングを行い、最終的に店頭での試乗予約や成約に繋げていく流れも機能しています。こうしたキャンペーンでは、他社車の保有情報や過去の来店履歴などをもとに、お客様が切り替えを検討しそうなタイミングを見極め、メールやDMを通じてタイムリーなアプローチを行うようにしています。
的確なセグメント設計とタイミングの見極めが成果に直結するため、リード獲得後のフォロー施策においても特に力を入れているポイントです。キャンペーンによるリード取得→ナーチャリング→来店・商談というプロセスが、一貫したマーケティングフローとして確立されているのは大きな成果です。
定量的な数字での評価は難しい部分もありますが、たとえばTVCMの視聴や販売店への来店をきっかけに「SUBARU ID」を取得されるお客様が非常に多く、こうした施策とマーケティングクラウドを組み合わせたナーチャリングは非常に有効な手段となっています。実際、自社で保有するあらゆるチャネルと比較しても、キャンペーン経由のアプローチは優れているという実感があります。
様々なチャネルで興味を持ってくれたお客様を、最終的にメールマガジンの購読へと導く一連のプロセスにおいても、一連の設計は中間地点としてしっかりと機能しており、効率よく取りこぼしなく次のステップに繋げられていると感じています。
――メールなどのデジタルに加えて、「Print of Things」のような紙DM施策にも取り組まれていますね。
はい。自動車は今でも、「オンラインで購入せず、店頭で比較検討する」「購入の決定を家族と一緒に検討する」ケースが多い特殊な商品です。だからこそ、物理的に手元に残る紙DMは、比較検討の場において非常に有効な手段と考えています。特にカタログに掲載している情報が残る形であれば、手元に残して何度も見返すことができるので、数カ月から半年以上といった長期間にわたる購入検討に寄り添えるツールとしての強みがあります。
実際に、販売店にパンフレットだけをもらいに来るお客様も多くいらっしゃいます。今すぐに購入されるわけではなくても、有形のカタログをお渡しすることで、必要なタイミングで思い出してもらえる——そんな“代えの効かないツール”としての価値があると感じています。検討初期の段階での印象づけや、家族間での共有にも適しており、紙だからこそ果たせる役割が確かにあると感じています。
また、自動車は購買サイクルの期間が長く、お客様ご自身で情報を集め、比較検討しながらじっくりと判断される商材です。そのため、TVCMなどのマス広告も今なお有効に機能しており、他の商材では効果が出にくくなっている現在でも、購入検討を促す重要な接点となっています。紙のカタログも同様に、有形の情報としてお客様の手元に長く残り、家族間での情報共有にも活用されます。こうした購買プロセスに合わせ、紙DMは“渡すタイミング”まで戦略的に設計が求められており、その点でもPrint of Thingsの価値が発揮されると考えています。
最近「Print of Things」を活用し、よりパーソナライズされたDMの送付にトライしました。これは、販売店の優れた営業担当が自然と行っているような「お客様の関心に合わせた手紙」を、私たちの保有するデータと仕組みで再現するものです。
今回送付したDMの効果測定はこれからになりますが、最終的には営業現場で成果を上げている担当者が実践している工夫を、我々のマーケティングの仕組みで補完・再現することを目指しています。優秀なセールスが日常的に行っている“最適なタイミングでのお声がけ”や“興味関心に合わせた情報提供”といった対応を、データの力で仕組み化して支援することで、販売現場の負担軽減と質の高い接客支援につながっていくことを望んでいます。
今後の施策精度の向上や営業活動の後押しにもつながるものとして、効果測定を含めた検証を進めていく予定です。
――施策の効果測定運用や体制についても教えてください。
週に1回、関係部署との施策計画会議を行い、そこから制作会社と共にシナリオ設計を始めます。彼らはSMCの設定やシナリオ構築に強みを持っているため、タイミングやセグメントの設計まで密に連携しています。
また、その場では効果検証もあわせて実施しています。過去の配信結果はBIツールで可視化し、開封率・クリック率・コンバージョン状況などを継続的にモニタリングしています。これにより、翌週の配信内容やセグメントの調整が可能となり、PDCAを高速に回せています。
――マーケティングクラウドの活用を通じて得られた成功事例や、印象的なエピソードがあれば教えてください。
昨年実施した前述の「購入資金キャンペーン」は印象的でした。キャンペーンを通じてリードを獲得した後、それぞれのお客様が検討している車種に応じて、レヴォーグやインプレッサといったカテゴリが異なる車種の情報はもちろんのこと、それぞれの車種で展開されている購入促進キャンペーンを適切に送るシナリオを構築しました。
その結果、開封率・クリック率ともに高水準を維持し、キャンペーン後の来店・試乗予約へとスムーズに繋がりました。
このように、個々の興味関心に寄り添いながら情報提供できる点が、マーケティングクラウドとPrint of Thingsを掛け合わせたコミュニケーションの強みだと実感しています。
――今後、SUBARU社としてマーケティングにおける新たな展望はありますか?
私の取り組みとしては引き続き、チャネルの拡張にトライしていきたいと考えています。今後は紙DMとメールだけでなく、自社アプリや広告配信とも連携させて、顧客ごとに異なる最適なチャネルを見極め、その組み合わせによってアプローチの精度を高めていく方針です。
また、販売店と連携し、現場の営業ナレッジを施策設計に取り入れていくことも大事だと考えています。現場で得た知見と、我々の分析やデータを掛け合わせることで、よりお客様の感情やタイミングにフィットしたアプローチが可能になるはずです。
――最後に、AIなど先進技術の活用についてはどのように捉えていますか?
将来的には、AIによる顧客分類やシナリオ自動生成など、さらに高度な活用も視野に入れています。分析やセグメント設計などは外部パートナーとも連携しながら、最適なタイミングで、最適なチャネルで、最適な情報を届ける——そんな理想の実現に向けて、今後も取り組んでいきたいと思っています。