社長ブログ
最近弊社ではデジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈でCDP(Customer Data Platform)やMAの導入、運用に関わることが多くなりました。
1to1コミュニケーションのチャネルはEメールからアプリプッシュやLINE、SMSと拡がり、最近ではDMも再評価されています。
その活用目的も販売促進だけでなくお客様に最適な情報・サービスを提供することによる顧客体験価値の向上を目指すものになってきています。
当然コミュニケーションのあり方も変わっていくはずですが、私は今後1to1コミュニケーションにおいてお客様に情報を伝えるだけではなく、お客様から情報を聞き取るという視点が重要になってくると思っています。
私たちはプッシュ型のチャネルだと思い込んで情報を伝えることばかり考えがちですが、1to1チャネルは本来双方向のコミュニケーションチャネルですから、お客様が何を望んでいるのか、どう感じているのかを教えていただくためにもっと活用できるのではないでしょうか。
(ここで「聞き取る」「教えていただく」というのはソーシャルリスニングのような「傾聴」よりもむしろ顧客IDと紐づいた「データ取得」だといえます。)
IoTの拡がりによって膨大な量の多種多様な顧客データが収集され、それをAIを使って高速処理して最適なサービスを提供するというのが、業種に関わらずこれからの多くの企業に共通するビジネスモデルとなるはずです。
そうなった時、センサーだけでは得ることができないお客様の気持ちや明示的な意思表示は非常に重要になってくると思います。
問いかけから始めるだけで「売り込み」が「サービス」に変わる。
私たちは過去の購買履歴やweb上の行動データからお客様が次に購入検討する商品を予測してレコメンドすることがありますが、もしお客様が今何かを探しているのだとしたら、それを直接教えてもらえれば本当に最適なレコメンドが可能です。
また一方的なレコメンドは「売り込み」でも、お客様の要望に対するレコメンドであればそれは「サービス」になります。
例えば私が服を買おうとセレクトショップに入って、いきなり店員さんから「今日はこのジャケットが安くなっていますよ」と言われるのは単なる売り込みですが、ちょうどいいタイミングで声を掛けられて「今日は何かお探しですか?」「紺のジャケットを探してるんだけどね」「でしたらいくつかお持ちしましょう」と言われてジャケットを羽織ってみるのは接客でありサービスだと感じます。店員さんは私の要望に対応してくれているからです。
店員さんが私の行動をじっと観察していて、突然「紺のジャケットをお探しですね?こちらはどうですか?」と言われても、例えその通りでも気持ちいいものではありません。
ここでは先にお客様から明示的に要望を聞き出すことが重要で、それは同時に情報提供やサービス提供に関するある種のパーミッション取得の意味もあるのです。
私は「紺のジャケットを探してるんだ」と告げることで店員さんに情報提供を依頼したことになり、店員さんからの情報提供を待つ姿勢になります。
こういった情報取得にはタイミングがとても重要です。
別の例で考えてみましょう。例えば私が東北旅行のツアーに参加して帰宅した日の夜に「今回のツアーはどうでしたか?」と聞かれれば、高揚した気分で「あの絶景は良かった」「食事は土地のものを食べたかった」「ホテルは今ひとつだった」「また東北に来たい」といった感想を答えるかもしれませんが、1か月後に質問されても答える気がしないか記憶を辿ってぼんやりした答えしかできないと思います。前者の場合であれば、その後「青森・岩手を巡る食道楽ツアーがあるんですけど、いかがですか?今度はホテルもいいですよ」とお知らせが入っても嫌な気はしません。私の思いに応えようとしてくれていることが分かるからです。
これまでもアンケート目的のメールなどはありましたが、一斉配信でデータ取得後の活用シナリオまでは設計されていなかったり、そもそも回答が面倒で回答率が低いなどの課題がありました。
CDPやMAを活用すれば、お客様ごとに最適なタイミングを予測して1to1で「問い」を投げかけることができます。またLINEやアプリを使ってページ遷移もなくタップするだけで回答を得ることができます。それも本当に聞きたい1、2問の質問であれば簡単です。
実際に私たちはMAとチャットボットを組み合わせて、レジャー施設の利用者に利用直後のアンケートをLINE上のチャットで実施したことがあります。お客様が利用した日の夕方にLINEのチャットで「今日はいかがでしたか?」というメッセージとともに簡単な質問に答えてもらうのです。特にインセンティブもありませんでしたが、その回答率やフリーアンサーの細かさは想像以上でした。
お客様の行動や状況変化に応じてタイミングよくアプローチすることによって、「今この瞬間の」お客様の気持ちや要望を効率よく聞き出すことができます。
そのデータは蓄積した過去の履歴データやリアルタイムのセンシングデータに意味を与えることができる貴重なデータであり、それに基づいてお客様により適切な対応をすることができるはずです。
情報を一方的に伝えるだけでなく、情報を聞き出すことによって1to1コミュニケーションはお客様との対話に近づいていくのではないかと思います。
この記事を書いた人
岡本泰治 株式会社ディレクタス 代表取締役
京都大学卒業後、株式会社リクルートを経て1993年ディレクタスを設立。
航空会社や自動車メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案・実行し、近年ではマーケティングオートメーション(MA)の導入支援やシナリオ設計、MA導入後のOne-to-Oneクロスチャネル展開設計など、常に最新のソリューションと長年培ってきたノウハウをもとにOne-to-Oneマーケティングを推進。