マーケティングコラム
このところ、今までにない形でCRMについて議論する場面が増えてきました。
最近話題になることが多いDMPの一形態であるプライベートDMPのプロジェクトだったり、日本でも本格的な普及期を迎えつつあるマーケティングオートメーションやキャンペーンマネジメントシステムの導入検討の場面だったりします。
データがCRMを変えた
CRMを取り巻く環境はここ5年ぐらいの間に激変しました。
大きな環境変化の一つは取得・処理できるカスタマーデータの種類と量が飛躍的に増大したことです。
webアクセスログや広告の反応も含めた行動データが飛躍的に増え、まだ色々課題はありますがサードパーティによる外部データも利用可能になっています。
これによって今まで把握できなかったカスタマーの行動が可視化され、より適切なコミュニケーションをタイムリーに実行できるようになりました。
カスタマーから「ユーザー」へ
さらに個人情報取得前の段階でもブラウザ単位でユーザー(※)を「個」として認識しデータを取得できるようになりました。
CRMの視点から見ると、プライベートDMPはこのレベルのユーザーデータを基にしてデータベースマーケティングを行うためのプラットフォームだと考えることもできます。(従来の「マーケティングデータマート」や「統合データベース」は主にカスタマーを念頭に置いたもので、その対象がユーザーレベルに広がってアドテクと融合したことが大きな違いだと思います。)
(※)「Users, Not Customers」(邦訳「USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略」2013年 翔泳社)の中で著者のアーロン・シャピロは、カスタマーだけでなく見込客やブランドのファン、求職者などまで含めた「デジタルメディアとテクノロジーを通して企業と交流する人々」として「ユーザー」という言葉を定義し、カスタマーはユーザーの一形態に過ぎないとしています。
確かに企業はソーシャルメディアに代表されるさまざまなチャネルを通じてユーザーとインタラクティブなコミュニケーションを行うようになり、ある場合はブランドのファンとなったユーザーがブランドイメージを拡散してくれますが、そのファンはカスタマーとは限りません。
企業が関係を築くべき「お客様」は従来のカスタマーではなく企業と接点を持つユーザー全体だといえます。
これまでもメルマガやBtoBのリードナーチャリングのような形で非カスタマーに対するCRM型のアプローチが行われてきましたが、その対象はあくまで「メール会員」や「見込顧客」として捉えられていました。
これからはユーザーデータを核にして対象をカスタマーからユーザー全体に拡大した、URM(User Relationship Management)とでもいうべき次世代型CRMのコンセプトが必要になってくると思います。
データドリブンなクロスチャネルコミュニケーションをどうやって実現するのか
また、従来はCRMのコミュニケーションチャネルといえばEメールやDMでしたが、それは顧客ごとのコミュニケーション最適化のためにデータベースに基づくOne to Oneコミュニケーションを必要としたからです。
今やほとんど全てのデジタルマーケティングはデータベースマーケティングとなりつつあり、その意味ではwebサイトやスマホアプリ、オンライン広告なども全てCRMのためのコミュニケーションチャネルとして活用できるようになりました。
したがって次世代型CRMは実際にはあらゆるチャネルを通じて提供される一連のユーザー体験という形をとることになります。
その実現のためにはプライベートDMP上で処理されたユーザーデータに基づいて顧客ごとに最適なコミュニケーションをクロスチャネルで実行する機能が必要になるわけですが、マーケティングオートメーションやキャンペーンマネジメントシステムがアドテクノロジーと連携してその役割を果たす可能性が高いと思います。一方でデータの分析やセグメンテーションという機能は被っているので、プライベートDMPがオートメーション機能を備えて進化することも考えられます。
いずれにしてもコミュニケーションの実行のためにはさらにその先にDSP、メール配信システム、CMS、スマホアプリ、オフラインではCTIやDMシステムなど多くのツールを組み合わせて使う必要があり、この仕組みの全体設計と運用のノウハウはまだ世界のどこにも確立されていないように見えます。(もしどなたかご存知でしたら是非こっそり教えてください。)
そういう意味ではこれからしばらくCRMの領域はとても面白いエキサイティングなフィールドになるのではないでしょうか。
岡本泰治
京都大学卒業後、株式会社リクルートを経て1993年ディレクタスを設立。 航空会社や自動車メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案・実行し、近年ではマーケティングオートメーション(MA)の導入支援やシナリオ設計、MA導入後のOne-to-Oneクロスチャネル展開設計など、常に最新のソリューションと長年培ってきたノウハウをもとにOne-to-Oneマーケティングを推進。