マーケティングコラム

Salesforceが切り拓く次世代マーケティング──Marketing Cloud NextとAgentforceの革新とは

マーケティングコラム

2025年6月、米シカゴで開催された「Salesforce Connections」。この年次イベントで、Salesforceは次世代のマーケティング基盤「Marketing Cloud Next(マーケティングクラウド・ネクスト)」を発表しました。
従来のMA(マーケティングオートメーション)とは一線を画すMarketing Cloud Nextは、AI、リアルタイムデータ、クロスクラウド連携といった先進技術を融合し、企業と顧客の関係性を根本から変えるポテンシャルを持っています。

本記事では、今回発表された内容を整理し、導入の意義や実例、機能、そして今後の可能性について解説します。

 

なぜいま「Next」なのか?背景にあるマーケティングの課題

ここ数年、企業が直面するマーケティングの課題は複雑化の一途をたどっています。

• 複数チャネルにまたがる断片的な顧客データ
• マーケティングと営業、カスタマーサポートの間にある組織の壁
• 一方向の大量配信に依存した非効率な施策
• パーソナライズの限界と属人化

これらの課題に共通しているのは、「分断」です。顧客と企業、データとシステム、部門と部門の間にあるこの分断を埋めること。そこにSalesforceは真正面から取り組み、「Marketing Cloud Next」という答えを提示しました。

 

Marketing Cloud Nextの特徴:5つの革新ポイント

Marketing Cloud Nextは、これまで個別に提供されてきたSalesforceのマーケティング製品群を、AI活用を前提にゼロから再設計・統合した次世代プラットフォームであり、単なるツールの進化ではなく、“AIを使いこなす”マーケターのための新しい基盤です。AIエージェントが、日常業務の多くを自律的にこなし、まるで“即戦力のチームメンバー”のように働くことで、マーケターはより創造的で戦略的な業務に集中できるようになります。

1. 統一された顧客プロファイル(Unified Profile)

顧客とのすべての接点(Web、メール、SNS、店舗、営業など)から得られた情報をリアルタイムで統合し、「ひとつの顧客像」を構築します。これにより、チャネルごとにバラバラだった対応が一貫した体験に進化します。

2. 共通の指標とKPI管理(Shared Metrics)

マーケティング部門だけでなく、営業、カスタマーサクセス、経営層までもが共通のダッシュボードと指標をもとにアクションできる仕組みを提供。組織全体の動きが合致することで意思決定が加速します。

3. ノーコードでの自動化(Cross-cloud Triggers)

Salesforceのプラットフォーム上で、開発なしにさまざまなクラウドサービス間を連携可能。例えば「あるセグメントがWebサイトを再訪したら、SMSを自動配信」といったシナリオを、ノーコードで構築できます。

4. AIエージェント「Agentforce」

Agentforceは、SalesforceのAIアシスタントで、単なるチャットボットではありません。顧客の行動に応じて最適なコンテンツやオファーを選び、双方向の対話を自動化。Slackなどの業務ツールとも連携し、チームでAIを活用できます。

5. Data Cloudとのネイティブ統合

SalesforceのCDP(カスタマーデータプラットフォーム)であるData Cloudと完全に統合されており、400以上のデータソースとの連携が可能。構造化・非構造化データを問わず、高速で取り込み、リアルタイムに活用できます。

 

実例:医療とスポーツ業界での活用

Marketing Cloud Nextの活用は、すでに複数業界に広がっています。代表的な事例を2つご紹介します。

医療業界:患者体験のパーソナライズ

シカゴ大学医学部では、Data CloudとAgentforceを活用し、患者情報を一元管理。予約の自動化、FAQ対応のチャットボット化、パーソナライズされたリマインダー配信などにより、医療現場の負担軽減と患者満足度の向上を両立しています。

スポーツ業界:NBA「インディアナ・ペイサーズ」

NBAチーム「インディアナ・ペイサーズ」は、観客のチケット購入履歴、グッズ購入、来場履歴など30以上の情報源をSalesforceに統合。Agentforceを活用して、ファン一人ひとりに合わせたメッセージを送信し、売上を増加させています。特に注目すべきは、Web閲覧履歴や地理データをもとに、ファンのニーズをAIが自動予測し、オファーを動的に変えている点です。

 

簡単に実装を始めるには:5つのステップ

Marketing Cloud Nextは、すべてを一気に置き換えるのではなく、既存環境を活かしながら段階的に導入できます。
1. Data Cloudの接続:顧客データをリアルタイムで取り込む基盤づくり
2. セグメントとジャーニーの同期:従来のマーケティング資産を活用可能
3. Agentforceの導入:キャンペーン設計や対応をAIに任せる
4. デジタルウォレットで消費傾向を管理:メッセージングや残高に応じた対応
5. Journey BuilderとFlowの統合:マルチ部門連携によるカスタマージャーニーの強化
このステップであれば、既存のSalesforce Marketing Cloud Engagementとの併用もしやすく、移行リスクを最小限に抑えることができます。

 

双方向コミュニケーションの重要性

Marketing Cloud Nextが特に強調するのは、「一方向型」から「双方向型」への転換です。

かつての「Do not reply(返信不可)」メールのような、一方的な情報配信では、顧客の信頼や関係性は築けません。Agentforceを通じた対話型エクスペリエンスは、次のような価値をもたらします。
• 顧客の反応に応じた動的な対応
• チャネルをまたいだ会話の継続
• 自然言語による問い合わせとコンバージョンの融合

「双方向の対話」とは単なる自動返信ではなく、リアルタイムで反応し、価値を提供するマーケティングなのです。

 

今後の展望:マーケティングの「運用」から「共創」へ

Marketing Cloud Nextが提示する未来は、「顧客と企業が共創するエクスペリエンス」の世界です。マーケターの仕事は、もはや配信数やCTRを追うことではありません。AIとデータを活用して、ひとり一人の顧客に「今」必要な体験を届けることが中心になります。

さらに今後は、SalesforceのEinstein AIとの統合が進み、予測・生成AIを活用した「完全自動化されたパーソナライズ」も実現していくと予想されます。

 

まとめ:Marketing Cloud Nextは、未来のマーケターのための武器である

Marketing Cloud Nextは、単なるMAのリニューアルではありません。それは「データ・AI・チャネル・人」を再構築し、真に顧客と向き合うマーケティングを可能にする、プラットフォームの“再定義”です。分断のないデータ基盤、リアルタイムの双方向コミュニケーション、そしてAIとともに働く体験。これらを実現したいマーケティング担当者・チームにとって、Marketing Cloud Nextはまさに「次の一手」になるでしょう。

※最新のMarketing Cloud Nextに関する情報は、Salesforceの公式サイトまたはConnections 2025のアーカイブ動画をご参照ください。 

金子 裕一
株式会社ディレクタス パートナーアライアンス部