CRMやOne to Oneマーケティングのコンセプトが世に出て約30年。ディレクタスは創業以来30年、ほぼ同じ年月を一貫してこの領域の支援サービスに取り組んできました。当初描かれていたコンセプトは、テクノロジーやコミュニケーション環境の目を見張る進化によって予想を超える形で実現されつつあります。
では、これから企業と顧客の関係はどうなっていくのか?いわば「CRMの次」は何なのか。それを考えるために、今までディレクタスとご縁のあった業界の有識者に今までの歩みやテーマ、マーケティング領域におけるこれからの課題などを代表の岡本がお聞きしていきます。
5回目となる今回は、デジタルビジネスを通じて企業と人々の“MEMBERSHIP=つながり”を支援し、企業活動の在り方を「社会をより良くするもの」への転換をサポートする、株式会社メンバーズ 執行役員 原 裕 様との対談となります。
プロフィール
株式会社メンバーズ 執行役員 原 裕
1984年にアメリカン・エキスプレス・インターナショナル Inc. 日本支社に入社、加盟店営業、加盟店マーケティング、京都営業支所長、キーアカウントマネジャーを経て、1996年より広告代理店J.W.Thompson社でダイレクト事業会社Thompson Dialog取締役ジェネラルマネージャー。1999年より株式会社メンバーズで執行役員を担当。ネットビジネス支援を通じてダイレクト・マーケティングを進化させ、企業と顧客と地球のエンゲージメント強化をテーマにマーケティングを実践。
株式会社ディレクタス 代表取締役 岡本 泰治
1993年にディレクタスを設立し代表に就任。今年で設立30周年を迎える。数多くの大手企業の1 to 1マーケティング戦略を立案。配信システムの提供、コンテンツ企画・制作からオペレーションアウトソーシングまで実施に必要な全ての機能をワンストップで提供している。企業のマーケティング活動を支援することによって、人々の暮らしをより心豊かで期待に満ちたものにすることを目指している。
岡本: 原さんに初めてお会いしたのは2000年頃でした。
原: まだメンバーズのオフィスも虎ノ門にあった頃ですね。
岡本:はい。その時ある大きな案件をご紹介いただきました。eメールマーケティングを本格的に立ち上げたいというお話で。最初のところは原さんにも一緒に入っていただいた後、「じゃあ後は任せた」という感じで直接仕事をさせていただきました。
そこからeメールマーケティングの方針や中期戦略の策定をお手伝いして、PDCAを回しながらメールの企画制作も担当するようになり……。おかげ様で、今でも続いてます。
原: すごいですね!長いなあ。
岡本:ありがとうございます。ディレクタスはCRMを仕事にしてますけれど、長期的な視点で見たLTVの最大化というのは私たち自身の戦略でもありますね。
そのデータ、本当に使えてますか?
原: ところでよくデータ、データというけれど、本当に皆さん使いこなせているのでしょうか?デジタルだからデータがあるということで、そのデータを使うためにデジタル化するという側面もあると思うのですが。結局のところは、ただデータを持っているよりお客さまと繋がっていることの方が重要なのではないかと。
岡本:僕たちはCRM領域で戦略を策定したり、MAやCDPを導入して運用するお手伝いしてるので、そういう意味ではもちろんデータを所持して使ってます。実際には購買データやwebログなどの顧客行動データですね。ただそれらを本当に活用できているのか?と言われると、正直なところ自信はありません。
原: でもAIも相当精度が良くなってくるし、顧客と対話だってするようになるはずです。別に自分たちが、全てのデータを持たなくてもいいのではないでしょうか。
岡本:例えば旅行を提案してもらうときに、僕がどんな場所を旅行してきたかや、どんなホテルに泊まってるとか、そういうデータを踏まえてレコメンドしてくれた方が好みに合っていいんじゃないかと思うんですが。
原:でもね、それは都度聞けばいいと思うんだ。コンシェルジュみたいに。
岡本:なるほど。
中途半端なデータ活用をするより、お客さまときちんと繋がることの重要性
原:それは僕も様々な会社でたくさんの議論をしていて。例えば旅行だったら、いつも使う路線が分かってるからそれを優先して表示するとか、そういう利便性の向上という意味では確かに役立ちます。でも趣味嗜好まで全て分かって、その人に本当に合った旅行を提案するっていうのは難しいじゃないですか。その人の全てのデータを持っているわけじゃないんだから。
岡本:それは確かにそうですね。一部のデータでしかない。その人の全体像は見えてないですよね。
原:だったら、その場でお客さまに聞きながら対応するコンシェルジュの方がいいんじゃないのかな?と思うんですよ。
顧客のデータを全部取得できて、それを活かせるだけの幅広い商材を抱えてる企業なんてほとんどないのでは。Amazonだったらできるかもしれません。実際に顧客の趣味嗜好をある程度把握していて、そこにお勧めできる幅広い商材も持っています。カード会社などでも可能性はあるかもしれない。でも他の多くの企業では、それは難しいですよね。
データを取得するというよりも、大切なのはちゃんとエンゲージメントできてるかどうかだと思っています。
岡本:そこで繋がるためにデータが必要なんじゃないでしょうか。相手のことを理解しないと繋がれないわけで。
原:理屈ではそうなのですが、それが本当に繋がるために活用できてるのかということです。単にお客さまを追っかけているだけになっていないか?
岡本:うーん。確かに実際に活用できてるケースは少ないでしょうね。
原:そうじゃなかったら、僕はアンケートでいいと思うようになってきたんだよね。もちろん、過去に何を買ったとか何を見たってデータはあるけれど、そんなレベルで本当に意味のある推定ができるんですか?というのがあって。
もちろんレコメンドで少しでも多く買ってもらうとか、あとは広告を効果的にすることは可能です。しかしそれは、本当に意味のある繋がりを作るというのとは違うと思う。
岡本: そういう意味では、データを取得して販促で活用することやその仕組みを作ることが、それ自体が目的になっているかもしれないですね。
原:ただしコンシェルジュ的な機能として、生成AIを活用することは意味があるかもしれないとは思ってます。企業独自のデータを活用してお客さまとやり取りする仕組みとして。そのためにはデータは必要ですね。
要はお客さまと繋がり続けて価値を共創できるかどうかだ
原:今僕らが取り組んでるサーキュラーエコノミー時代の顧客コミュニケーションに関連して言うと、家電でもなんでもサブスクモデルになるのが1つの理想と言われています。
岡本:掃除機だって買うんじゃなくてサブスクで借りる、というモデルですね。
原:そうすると繋がりながら持続していける。売りっぱなしじゃない時代に突入した時に、メーカーもお客さまと繋がらなくてはいけない。データを取るためにというよりも、基本的にはやっぱりエンゲージメントなんですよ。
岡本:例えば弊社の取引先でもあるゴルフダイジェスト・オンラインさんは「お客さまのゴルフライフに寄り添う」という理念を設定されてます。ゴルフのメディアやゴルフグッズの販売はもちろん、ゴルフ場の予約から、プレー中はスコア管理のアプリもあって、ゴルフレッスンのサービスも提供されてます。ゴルフライフ全体を通じて顧客と繋がることを目指している。
こうなるとデータが生きてくると思うんです。スコアデータの分析結果がレッスンやクラブ選びに活かされるとか。スキルアップに最適なゴルフ場を選定してあげるとか。
原:そんなふうにサービスや商品開発にうまく使うのはありだと思いますね。そういうデータの活かし方によってお客さまのエンゲージメントがすごく高くなっていく。
岡本:そういう意味では、僕は今までマーケティングと呼んできたものが無くなるというか、マーケティングはサービスや製品の中に埋め込まれてしまうのではないかと思ってるんです。実は自分たちの会社もマーケティングの会社だっていう風には思ってないところがあります。
最近は取引先の組織もマーケティング部署ではなくDXプロジェクトだったり、プロジェクト自体もマーケティングなのかサービス開発なのかよく分からない、境目が無いような仕事が増えてきています。
原:お客さまと繋がるということの本質を経営が理解することが重要だと思うんです。
世の中の流れとしては、マーケティングエンジンスケダチの高広さんなんかも紹介してくれているけれど、「SDL(サービス・ドミナント・ロジック)の時代になってきている」と言われていて。ナイキは靴をグッズだけではなく、ナイキ+みたいなサービスとして売ってると。
そうした時代にお客さまと繋がっていかないといけないんだけど、それがまだできてない。ダイレクトマーケティングをやってきたディレクタスはそこをやらなきゃいけないんだと思いますよ。
マーケティングの定義が変わった
原:ところで今年の1月に日本マーケティング協会の、マーケティングの定義が変わりましたよね。
岡本:34年ぶりだそうですね。
原:あれは一気に来たなっていうのがあって、僕は素晴らしい定義だなと思ってる。いわゆるSDL(Service Dominant Logic)の考え方まで盛り込まれてて。
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2024年1月、日本マーケティング協会によるマーケティングの定義が以下のように刷新された。
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。
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岡本:僕もすごく意味のある刷新だと思いました。
原: 皆があれをどれぐらい「ああ、なるほど」と思えるのか。その方向を目指せるのか。それが問題だと思う。
あの定義を当てはめた時に、ディレクタスはドンピシャのマーケティングエキスパートの集団にならなきゃいけないと思うんですよ。
ディレクタスは直接お客さまとエンゲージメントして、「モノ軸」から「コト軸」への移行を推進する会社なんです、って。
そのためにデータもあるしMAとかのツールもあるんだけど、それは手段であって目的じゃないよね。
岡本:確かにそうですね。
今こそディレクタスに期待したいこと
原:そういう意味では、岡本さんにはそろそろもっと上流を語ってほしいなと思ってます。ダイレクトマーケティングの変遷をずっと知ってるわけだし。僕もAMEXから始まってダイレクトマーケティングやってた人間だし、マーケティングはよりダイレクトに顧客とつながり共創する手段となってきていると思っています。全てダイレクトであると思っていて。
今までの戦術的なダイレクトマーケティングとは違って、これからはお客さまとダイレクトに繋がることがマーケティングの本質になる。そのために確かにデータは必要だけど、重要なのは、お客さまと本当の意味で繋がり続けて、製品やサービスを通して価値を共創していくっていうことだと思う。
で、それがどこに向かっていくかっていうと、より良い世の中、「より豊かで持続可能な社会」をつくるためだと。そこに向かってる人たちが中心にいないといけない。
Howの話は誰かに語ってもらえばよくて、岡本さんが語るべきなのは、お客さまと繋がるということ、共創するってどういうことなのか、じゃないですか?ダイレクトマーケティングから長く携わっていて、ツールじゃないその次のレイヤーを喋れる数少ない1人だと思ってるので。
岡本:ありがとうございます。そうなりたいです。
原:いやいや、急がないともう時間ないからさ。(笑)
岡本:はい。(笑)実際、もう既に企業もお客さまもみんな繋がっちゃっているんだけど、まだ僕たちも含め企業側がその変化についていけてない、という状況じゃないかと思っています。データにしてもツールにしても、商品を売るための道具としてしか考えられてないっていうのがほとんどで、その繋がっているお客さまと価値を共創していく、というふうには捉えられていない。
一方で、大きな変化も感じてます。
今まで僕たちが一生懸命やってきたことはオペレーショナルな部分が多くて、実際これまでCRMとかデジタルマーケの人が一番苦労してきたのは、実行部分だったと思うんですよね。コンセプトはあるけど、ポンチ絵はあるけど、それを実現するのが、システムもそうだしその運用もとても大変で。
オペレーションが目的化してしまって、本来の目的や戦略部分が空洞化していくという傾向が強かったと思うんです。
でも、この10年ぐらいでテクノロジーとインフラが以前からあるコンセプトに追い付いてきて、やりたいことは技術的には大体できるようになってきた。そこにAIも出てきて、いずれオペレーショナルな部分はメインテーマではなくなってくる。
「そもそも何をすべきなのか」という、本来的な目的や戦略をテーマにした話が増えてきていると感じています。
原:ディレクタスはポテンシャルもあるし、ノウハウもあるけど、今変われないとやばいと思うんですよね。
それぐらいすごい変わってきてる。日本マーケティング協会のマーケティングの定義がこのタイミングであんな風に変わったのは、大きな意味があると思います。チャンスかつピンチなんだよね。ピンチと同時にチャンスというか。
ディレクタスが変わるチャンスでもあるんじゃないですかね。
ディレクタスは狭義のダイレクトマーケティングをやってきたんだと思うんです。お客さまと直接繋がって、より効率的に売り上げを上げるためのマーケティング手法としてのダイレクトマーケティング。
それをこれからの時代に合わせて、お客さまと本当の意味で繋がり続けて価値を共創していくようなモデルに変えて行かなきゃいけない。そのトランスフォーメーションを支援する会社だと。そのためにデジタルテクノロジーもダイレクトマーケティングのノウハウも活用するわけだよね。
それをやっぱりバーンと宣言した方がいいと思いますよ。マーケティングの定義も変わって、ダイレクトマーケティングの意味もすごく変わってきてるっていうことと、それがいかに経営にとって必要かっていうことをね。
岡本:確かに、僕たち自身も大きく変わらきゃいけないタイミングですよね。それは先ほどお話ししたような環境の変化からもひしひしと感じています。まだ手探りですけれど、「お客さまと繋がり続けて価値を共創する」というのが一体どういうことなのか。それはどうやって実現するのか。自分なりの答えを見つけたいと思います。
原:期待しています!
岡本:今日はどうもありがとうございました。